「帰ろう由比さん」


「で、でも櫻井くん、足…」


「だから…手をつないでくれませんか、」



そんなので支えになんかならない…。

いつもの調子に戻った彼は、たったいまの冷たい空気をまといながらも優しい櫻井くんだった。


立ち上がって若干足を引きずりつつも、硬直する横山さんを気にすることなく。

その先に立っていた戸惑う私を見つけて、捕まえてくる。



「ごめんなさい、由比さんに優勝をあげたかったけど…2位でした」



ちがう、1位だった。
櫻井くんは1位だったよ。

私の目には櫻井くんしか映ってなかった。


思わず泣きたくなって、だけど泣いちゃうと彼を困らせてしまうから。

ぶんぶんと首を横に振った。



「わ、私も……ごめんね…、ごめんなさい、」


「謝らないでください。由比さんが謝ることなんかないのに…ほんと格好悪いですね、俺」


「う、ううん…!すごく格好よかったよ…!」



ぎゅっと、手が繋がれながらも引かれる。


すでにナイロン製のジャージへ着替え終わっていた櫻井くんは、胴着の入ったエナメルバッグと竹刀袋を肩にかけて。

そのまま横山さんを置き去りにするように体育館を出た。



「櫻井くん、でも冬休み明け…、学校に私たちのことが広まっちゃわないかな…?」


「まぁ、あえて言ったんで」


「え…、あえて…?」


「はい。あの人に知らせておけば、すぐ全校生徒にも伝わるだろうから」