そして私たちの雰囲気にツッコミというものを忘れた存在たちは、しばらくしてから騒ぎ出す。



「おいかずえ…!お前あの人と知り合いだったのか…?」


「そーだぞ主計っ!!お前から女子に声かけるなんてびっくりなんだけど…!てかあの人だれだっけ?」



シワのないブレザー、しっかり留められた緩まれることのないネクタイ。

ピシッと着こなす様は、さすが武道家の元に生まれた人だと思ってしまう。


そんな背中が囲われてしまったことで見えなくなった。



「…あの人ってやめろ」


「あっ、えーっと…ユイちゃん、だっけ?」


「……それもやめろ」


「はあ?どっちだよ!」



見えなくなるギリギリで聞こえた会話に、トクンと心臓が跳ねる。


私にもあんなふうに気軽に話して欲しいなぁ…。

いつか、もう少し仲良くなれたら普通に話せるようになるのかな…。


───ガシッ!!!



「わっ…!ゆ、ゆっこ…?」



と、ずっと静かだった友達の存在をいま思い出した。


わぁ……。

ゆっこの黒ーいスマイルが目の前に…。



「ちょっと、来いや?」


「……は、はい…」



くいっとうしろをさす親指が、そんな命令を下してきた。