「う〜ん。せっかくのバレンタインだから、やっぱり特別なものを作りたいよね。でも、何にしようかレシピを見てたら迷っちゃって……」

結衣は困ったように笑い、周りにいた女子が「じゃあ、一緒に何を作るか考えようよ!」と提案する。結衣たちはお弁当を片付けると図書室へ走って行き、教室に残された男子四人は、真っ赤な顔で互いを見ていた。

「ハァ〜……。何あれ、可愛すぎやろ」

髪の一部を赤く染め、垂れ目をした可愛らしい雰囲気のある男子、上村明(うえむらあきら)がそう言いながら机に突っ伏すると、他の三人も「それな!」と同意する。

「結衣ちゃんの言った通り、バレンタインって特別だよな」

ハイライトの入った髪に、ピアスをいくつもつけたおしゃれな男子、相原陸斗(あいはらりくと)が呟くと、「また抜け駆けする気?」と結衣と同じ色に髪を染めている小柄で可愛らしい男子、茶尾歩(ちゃおあゆむ)が陸斗を睨む。刹那、教室の空気がピリついた。

陸斗がした抜け駆けとは、去年のバレンタインの日に結衣にチョコレートを作って渡していたのだ。その時、結衣は男子からチョコを貰ったことに驚きつつも、「ありがとう」と可愛らしい笑顔で返していた。それに三人は腹を立てたのだ。