Valentine’s Day〜争奪戦の始まり〜

薄力粉とベイキングパウダー、そしてココアを全部合わせてふるい、そこに砂糖を混ぜ、卵を入れて素早く泡立て器で混ぜていく。

耐熱容器にバターを入れ、電子レンジで温める。そして、三回ほどに分けて薄力粉などが混ざったものに入れ、生地を型にスプーンで流し入れていく。

お菓子を作っている間、明の頭にあったのは初めて結衣と出会った時のことだ。

関西から急に親の都合で引っ越すことになり、慣れない土地と慣れない標準語に疲れ果ててしまっていた。そんな時に、結衣に「無理して変わる必要はないんじゃない?明くんの関西弁、私は好きだな」と言われたのだ。

それから、明は結衣とたくさん話すようになり、新しい友達も作ることができた。結衣がいなければ、都会の隅で孤独を抱えて生きていたのかもしれない。

(結衣に「ありがとう」って気持ちと、「めっちゃ好きやねん」って気持ちをいっぱい伝えたい)

結衣の小さな手を優しく握りたい。その手が、どんな柔らかさなのかを知りたい。