「難しいのは諦めて、もう型にチョコ流すのにしよかな〜」

バレンタインのチョコのレシピを一通り見た後、明は自分には難しいと諦め、型とチョコレートを買いに行くために玄関のドアへと向かう。

明がドアノブに手をかけようとした時、ドアが開いて「ただいま〜」と言いながら会社員の姉が帰ってきた。

「あれ明、どっか出かけるの?」

「スーパー。好きな子にチョコ作って渡そうって話になったんや」

明が学校でのことを話すと、目に鋭い光を宿した姉に「どんなチョコ作るつもり?」と訊かれる。明が素直に話すと、「そんなんで好きな子の心が手に入れられると思ったら、大間違いやからな!」と強い口調が返されてしまった。

「あんた家でもだらしないんやし、どうせその子に面倒見てもらっとるんやろ?そしたら日頃の感謝も込めて、ちょっとは凝ったものを作らな!」

姉の言葉は正解である。明は忘れっぽく、教科書を結衣に見せてもらったり、係の仕事を手伝ってもらったりしているのだ。