青の先で、きみを待つ。





「ハア……ハア……橋本さん!」

全力疾走で裏庭まで行くと、彼女はまだぼんやりと花を見つめていた。

橋本さんは驚いていた。それもそのはずだ。だって私は彼女からもう声をかけなくていいと言われている。

「そんなに大きな声を出したら、みんなに気づかれちゃうよ?」

「いいよ。私が橋本さんと話したいんだから」

許可ももらっていないのに、私は強引に彼女の隣へと腰を下ろした。橋本さんの足元には、抜いたばかりの草があった。どこから持ってきたのか如雨露(じょうろ)とシャベルも置かれている。

「橋本さんって、園芸部かなにかだったっけ?」

「ううん。違うよ。ただここの花壇がずっと荒れ放題だったから勝手に手入れをしてるだけ」

「その手に持ってるのって、花の種?」

「うん。これから植えようと思って」

そう言って、橋本さんは柔らかくした土に種を丁寧に埋めていく。

「私も手伝っていい?」

「いいけど、手が汚れるよ」

「平気。やらせて」

私は制服の袖を捲った。

橋本さんと私に大きな接点はない。だけど私は彼女といると、不思議と心が安らぐ。人から受ける痛みを知ってるぶん、自分はそうならないと、優しい空気を(まと)っているからかもしれない。

「橋本さん、ごめん。いじめのことを先生に言ったのは私なんだ」

彼女には報告しなければいけないと思っていた。

「私がしたことによって、もっと橋本さんの立場を悪くした気がする。本当にごめんなさい」

深く、深く、頭を下げた。