「……結局、私が先生に相談したところで、なんにもできなかったことと同じだよね」
変わるかもしれないと、期待した。
でも、なにひとつ変わらなかった。
「それは違うだろ」
「え?」
「お前は自分が正しいと思うことをした。結果はどうあれ、行動はしたんだよ、ちゃんとな」
いつもバカにしてくるから、まさか認めてくれるとは思ってなかった。
「……考えてみればさ、この世界で必死になる必要なんてないのかもしれないよね。だって、ここは現実でもなんでもないんだもん」
「そうやって割り切れないのが、お前だろ」
「………」
「俺はこの気持ち悪い世界から抜け出せればなんだっていいし、ここにいるやつのことなんて誰が誰をいじめてようと、はっきり言えばどうでもいいよ。でもお前はここでなにかを変えたいんだろ? だったら簡単に諦めんなよ」
私の言葉に、ぐっと手に力を入れた。
「諦めたくはないよ。でもなにをしたらいいのかわかんないよ」
弱音をはくと、蒼井はおもむろに窓の外を指さした。私は確認するために、指先の方向を見る。
そこには裏庭が広がっていて、見覚えのある女子生徒が花壇の前でしゃがみこんでいた。
「お前にしかできないことがあるんじゃねーの?」
彼は言葉足らずだけど、なにを言いたいのか、なにを言おうとしてるのか、私にはわかる。
「ありがとう。ちょっと行ってくる……!」
慌てたように廊下を駆け出すと、蒼井は見送るように、ひらひらと手を振っていた。



