「お前が天国? 逃げ癖のついてるやつがそんなとこ行けるわけねーだろ」
目が覚めるような強い言葉を投げられた。
たしかに私は今、いろんなことをこれ以上考えたくなくて現実逃避をしようとしてる。
でも、だからって、そんなに言い方をしなくてもいいと思う。
「逃げ癖とか蒼井が私のなにを知ってんの? 普通に天国に行けたらいいなって言っただけじゃん。なんでそんな嫌味なことしか言えないわけ?」
そうだねって言ってくれればそれでいい。私だって本気で言ってるわけじゃないんだから。
「知らねーよ。お前のことなんて」
いつの間にか腰を上げていた蒼井は、私の前に立って見下す形で視線を向けていた。
私は彼の瞳が苦手だ。目を合わせると、全部のことを見透かされているような気持ちになる。
「俺に助けてって言ってきたのはお前だろ。頭の中がごちゃごちゃで自分でもどうしていいかわかんなかったんだろ? 逃げるんじゃなくて、逃げないで済む方法なら一緒に探してやる。まずは息吸ってとりあえず落ち着け」
くちゃっと、大きな手で髪の毛を乱された。
彼の言うとおり、まずは落ち着かないといけない。ゆっくりと深呼吸をすると、少しだけ冷静になることができた。
「蒼井って本当は優しい人?」
「まさか」
「でも走ってきてくれたじゃん」
「来るよ、お前に呼ばれたら」
「……え?」
「だから、もうひとりで背負うなよ、バカ」
ぎゅっと、下唇を噛む。せっかく止まっていたのに、彼のせいで私はまた泣いた。



