ふたりきりになり、彼の視線が私へと向く。高圧的で、不機嫌さをむき出しにしている。怒ってるんだとわかった。
蒼井の手が私へと伸びてくる。そして思いきり頬をつねられた。
「い、痛い、痛い!」
「ぼーっとしてんじゃねーよ。ブス」
痛いけれど、その中に優しさも感じた。月夜に照された彼の額にはほんのりと汗が光っている。
もしかして、走ってここまで来てくれたんだろうか?
「お前さ、場所くらい言ってから電話切れよ。そのあと繋がらねーし、手間かけさせやがって」
「あ、ごめん。電池が切れちゃって」
「なんだよ、それ。使えねースマホだな」
どうやら私のことを相当探し回ってくれたらしい。
「あの、ありがとう……」
お礼を言うと蒼井は面倒くさそうに、私と同じベンチに腰を下ろした。
「んで、なんなの? 助けてって」
彼が真剣な顔でこっちを見ている。電話したのは私なのに素直になれない悪い癖が出た。
「えっとね、またフラッシュバックしちゃって。気がついたら電話してたみたいな?」
「………」
「と、ところでよく私がいる場所がわかったね! 最初の頃にうちの周りをうろついてた不審者って蒼井でしょ? もしかして家の場所とか調べたの? うちから近い公園ってここしかないもんね! 探してくれるならもっとわかりづらい場所にいたらよかったかな」
油でも塗ったかのように、舌が早く回っていた。
だって家族のことを誰かに話すのって勇気がいる。
今のお母さんとお父さんのことが大好きだったぶん、それらが全て偽物だったなんて思いたくないし、悲しみを通り越して、恐怖感に襲われていた。
顔は笑ってるはずなのに、体が震えてる。そんな様子をじっと見ていた蒼井は深いため息をついていた。
「ヘラヘラしてんじゃねーよ。お前の作り笑顔なんてすぐわかるんだから止めろ」
その言葉で、張り付けようとしていた笑顔が消えていく。
私はどうして蒼井に電話をしたのだろう。助けてなんて人生で一度も言ったことないのに、なぜだか自然と彼には頼ることができた。
蒼井の前でなら、強がらなくてもいい?
本当の私を見せてもいいの?



