「……橋本さん、先生に相談したら?」

濱田先生ならきっと親身になってくれる。

とても勇気がいることだけど、このままじゃエスカレートしていく一方だ。すると橋本さんは静かに首を横に振った。

「きっと長谷川さんも一時的な感情だと思うし、私は本当に大丈夫だから」

「で、でも……」

一時的にしては度が過ぎている。きっとやりすぎて加減がわからなくなっているんだ。

「あ、そうだ。紺野さんにこれ」

橋本さんは思い出したように、カバンの中からなにかを取り出して私に差し出した。

「前に貸してくれたハンカチ。返すのが遅くなってごめんね」

綺麗に折り畳まれたハンカチには、シワひとつなくて、わざわざアイロンをかけてくれたことが窺える。

「いつもタイミングを見てたんだけど、なかなか返せなくて」

「タイミング?」

「紺野さんがあまりひとりでいる時ってないから」

その言葉に胸が傷んだ。

きっと橋本さんは私のことを考えて人目を気にしてくれていた。自分が一番辛いはずなのに。

「それとね、もう私に声をかけなくていいよ。誰が見てるかわからないし、自分のことは平気でも、私のせいで紺野さんに被害が起きた時には堪えられないから。ハンカチ、本当にありがとうね」

「………」
 
私は自分のことしか考えてなかった。
  
それが悔しくて、情けなくて、気づけば痛いくらいに握りこぶしを作っていた。