「……橋本さんっ!」

条件反射なのか、彼女の肩がビクッと震える。私はすぐさま橋本さんに手を貸して、ゆっくりと立たせた。

「紺野さん、どうして……?」

きっと野次馬の中に私がいることには気づいていたはずだ。あの場にいた私は同罪だし、本意ではなくても賭けにも参加している。許されることじゃない。

「橋本さん、ごめんね」

本当にずっと謝りたかった。私は彼女に謝らなければいけないことがたくさんある。

「なんで紺野さんが謝るの? 私は紺野さんになにもされてない」

「ううん。マラソンの時だって、私は橋本さんのことを知らん顔した」

橋本さんと沙織を天秤にかけて、私は沙織のほうを選んだ。自分のことを守るために。

「ごめんなさい。本当に、本当に……」

すると、沙織たちの前では泣かなかった橋本さんの瞳から涙があふれていた。

「紺野さんが悪いんじゃないよ」

泣きながら、彼女はニコリと微笑む。私はポケットからハンカチを出して、それを橋本さんに渡した。

「よかったら使って」

「ありがとう……」

ハンカチを受け取った橋本さんの指先が私に触れる。……その瞬間、またザザザーと砂嵐のような感覚がやってきた。