「ってかさー、せっかくイエスに賭けたのに負けたんですけど?」
追い詰めるように、橋本さんに近寄っていったのは沙織だった。
「わ、私は……」
「なに? 文句でもあんの?」
沙織が橋本さんの襟を力強く掴んでいる。震えるほど怯えているというのに、その光景は沙織だけじゃなく他の人たちからも撮影されていた。
ひとりの人を寄って集って攻撃する。それはもはや人ではなく、人の形をした兵器だ。
「損したやつらの金は全部お前が払えよ。それで、秀に謝れよ」
沙織はさらに、理不尽な要求を突き付けていた。周りにいる人たちも「そうだ、そうだ」と同意して、金と謝罪を求める呼び掛けを交互にしている。
橋本さんは……泣いていなかった。
その代わり、こんなことには屈しないっていう強い瞳をしていた。
「は? なにその目」
沙織が苛立ちを露にしている。
橋本さんはひとりで戦ってる。
いじめられ続けても毎日学校に来て、沙織たちのいじめに耐えている。
なんて、なんて強い人なんだろうか。
私のほうが泣きそうになってくる。
「こっち見てんじゃねーよ、ブスが!!」
声を荒らげた沙織は、橋本さんのことを思い切り突き飛ばした。



