青の先で、きみを待つ。





「俺、前から橋本さんのこと好きだったんだよね」

ある程度の観客と役者が揃うと、ついに加藤くんによる茶番劇が始まった。ふたり以外は草むらや物陰に隠れていて、沙織はその様子をスマホで撮っていた。

「え……わ、私のこと?」

突然呼び出されて告白された橋本さんは明らかに戸惑っていた。

恥ずかしいのか驚いているのか、顔も少しだけ火照っているように見える。そんな彼女のことをバカにするように、みんなは肩を震わせて笑いを堪えていた。

「橋本ってよく見たら可愛いし、真面目なところがずっといいなって思ってたんだ。俺、見た目でチャラいとか勘違いされやすいけど、本当は一途だし絶対大切にする。だから俺と付き合って下さい!」

これが嘘じゃなかったら、とても素敵な告白だと思う。

でも綺麗な言葉を並べたって、そこに感情は一切ない。

こんなことを平気で言えてしまうことが、私は怖くてたまらなかった。

橋本さんは考えるように、うつ向いている。みんな小声で「秀、めっちゃ演技上手いじゃん。これはもう完全に橋本は落ちるね」と、彼女が返事をするのを今か今かと待ち構えていた。

「橋本。いや、まりえ。俺、本気だから。マジでまりえこと……」

「ごめんなさい」

「え?」

私たちの耳にもはっきりと届いた〝ごめんなさい〟という言葉。誰もが口をぽかんと開けていた。

それもそのはずだ。ほとんどの人たちが橋本さんは告白を受け入れるだろうと思っていた。

「え……え? 今なんて?」

自信満々だった加藤くんが、焦っている。

「あなたのことをよく知らないので、ごめんなさい。付き合うことはできないです」

堂々と告白を断る橋本さんの背筋が伸びていた。それを見て、ぞわっと鳥肌がたつ。

清々しくて、凛としていて、そんな橋本さんがカッコよかった。