「……なんだったと思う?」
「なにが」
「だから、私の頭の中に流れ込んできた砂嵐のこと!」
こっちだって蒼井に相談なんてしたくないけれど、話せるのは彼しかいない。私はわりと深刻に思っているのに、蒼井は寄り添う言葉ひとつ言わないで、あっけらかんとしていた。
「お前の忘れてる記憶だろ」
「や、やっぱりそうなの?」
「そうだろ、普通に」
記憶がないということ自体、半信半疑だったけれど、これで信じざるを得なくなってしまった。
――『前から思ってたんだけど、あかりってうざいよね』
それに、あの声。なんだかどこかで聞き覚えがある気がした。
誰? 誰だったの?
深く記憶を探ろうとすると、それを拒絶するように頭が痛み始めた。
「大丈夫か?」
「う、うん。平気。考えごとをしたり、なにか思いだそうとすると決まって頭が痛くなるんだ。思い出すなってことだったり?」
わざと明るくは言うと、「逆じゃね?」と、彼の言葉がすぐに飛んできた。
「思い出したいから痛いんじゃねーの。一種の記憶喪失みたいなもんじゃん。こじ開けようとすれば、頭痛くらいするだろ」
「じゃあ、思い出すのはゆっくりでいい?」
「ダメ。なるべく早く」
「優しくない」
「優しくねーよ、俺」
そうこうしてるうちに、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。先生は帰ってこなかったけれど、私たちはそのまま次の授業も一緒にサボった。



