青の先で、きみを待つ。







その日の夜、私は自分の部屋で写真を見返していた。可愛いフォトブックに貼られた友達や家族の写真。そのどれもが幸せそうで笑っている。

この思い出の全てが私の妄想だって言うの?

私は深いため息をついて、枕に顔を埋めた。どうしてこんな気持ちにならないといけないんだろうか。

蒼井が私の前に現れるまでは毎日満たされていて悩みもなく、気持ちも穏やかだった。それなのに最近の私は胸に針が刺さっているようにジクジクとしている。

……コンコン。その時、部屋のドアがノックされた。

「あかり。これ洗濯物」

お母さんが私の洋服を持ってきてくれた。

「ねえ、お母さん。最近なんか変わったこととかある?」

「変わったこと? 急にどうしたの?」

ベッドから起き上がれない私に代わってお母さんが洋服をクローゼットに閉まってくれていた。

「理由はないんだけど……最近急に変わった人とか、変だなって思う人とかいないかなって」

「そんな人いるわけないでしょ」

………だよね。私もそんな人はいないと思ってるんだけど、蒼井が変なことを言うから……。

「もう、熱でもあるんじゃないの? 明日の天気予報は雨だから窓を閉めて寝なさいね」

「うん」

梅雨でもないのに雨が多すぎる。ただでさえ気分が落ちてるっていうのに。

「あ、そういえば私の可愛い傘知らない? この前使おうとしたんだけど見当たらなくて」

「可愛い傘? そんなの持ってた?」

「ほら、黄色とオレンジの小花柄のやつ。前に一緒に買い物に行った時に私が使ってたでしょ?」

「買い物? いつ?」

「だから一週間くらい前に……」

「買い物も一緒に行ってないし、傘だって知らないわよ」

「え……」

お母さんの言葉に私は固まった。

そんなはずはない。

だって一緒に近所のスーパーに行って『今日はお惣菜で楽しちゃおう』って話して。それで帰りに雨が降ってきて私の傘にお母さんのことを入れてあげた。

それを、覚えてないなんて……。

「おかしなことばかり言ってないで早く寝なさい。おやすみ」

私の気持ちを置き去りにしたまま、お母さんは部屋から出ていった。