「だから言ってんじゃん。ここは俺たちがいた世界じゃねーって」
「じゃあ、ここはどこだって言うの? 死後の世界とかふざけたことは言わないよね?」
「さあ、それもありえるんじゃねーの」
なんで、彼はこんなにも平然とした態度でいられるんだろうか。事実だとしたら、こんなにも冷静でいられるはずがない。
「蒼井は私と屋上から落ちた記憶があるの?」
「あるから言ってんだろ。ボケ」
「じゃあ、なんで私たち一緒に落ちたの?」
「……知らね」
ずっと威勢よく喋っていたくせに、たまにこうして歯切れが悪くなる時がある。蒼井はなにかを誤魔化すように、飲み物を一気に流し込んでいた。ゴク、ゴクと、彼の喉が上下に動いている。
「ごめん、怒るだろうけど言うね。蒼井だけが頭を打ってるんじゃないの?」
「はあ?」
やっぱり彼は怒った。だって私たちは飲んだり、食べたり、話したり、痛みだってある。ここが別の世界だなんて、到底受け入れることはできない。
「それに私はずっと保育園も小学校も中学校も今だって、ここで暮らしてる。それはどう説明するの?」
「お前が作った妄想じゃね?」
「はい?」
「俺はお前と屋上から落ちて気づいたら学校にいた。それでお前は普通に授業を受けて、なに食わぬ顔をしてやがるから、とりあえず様子見で二日を過ごしたけど、やっぱりおかしいから確かめに行ったんだよ。それがあの雨の日」
――『お前、まだなんにも思い出さねーの?』
たしかに彼の第一声はそれだった。
蒼井の話が本当ならば、繋がってくる部分もある。だけどやっぱり私は……。
「信じられないよ。蒼井はこの世界のなにがおかしいと思うの? 私はおかしく思うことなんてひとつもないのに」
すると、彼から意外な名前があがった。



