青の先で、きみを待つ。




美保には正直に話そうと思っていたけれど、忠告された手前、言い出すことができなかった。

「おせーんだよ。ハゲ」

待ち合わせは実験室だった。幽霊が出ると噂の場所なので、授業以外は誰も寄り付かない場所でもある。

一応、お弁当は持ってきたけれど、こんな薄暗い部屋で食べたくないし、なによりカエルのホルマリン漬けが置いてあり、すでに食欲は失せていた。 

「あのさ、もっとこう、明るい場所は選べなかったわけ?」

「お前が人目につかないところがいいって言ったんだろ」

たしかに言った。校舎で話したりするなら、誰にも見られない場所がいいと。だって蒼井と一緒にいるところを誰かに目撃されたら、どんな噂をたてられるかわからない。

彼は不気味な実験室でもお構い無しに、購買のパンを食べ始めた。私も食欲なんてないけれど、とりあえずお弁当箱のフタだけは開けた。

「それ、自分で作ってんの?」

なにやら蒼井はおかずがたくさん詰められている私のお弁当に興味があるようだ。

「いや、お母さん」

「へえ。仲いいんだ」

「うん、仲良しだよ」

……あれ? 私、普通に蒼井と話してる?
蒼井って他愛ない話とかできる人じゃないと思ってた。

「で、俺になにを聞きたいの?」

彼は一瞬でパンを三つも完食していた。私なんてまだウインナーを一本しか口に入れていない。それ以上箸が進まなくてそのまま置いた。

「これはあくまで仮の話で、蒼井のことを信じたわけじゃないんだけど、私たちって本当に屋上から落ちたの?」

「うん。そう」

「それってどこの屋上?」

「この学校」

「だ、だとしたらなんで今生きてるの? なんで私たち普通に生活してるの?」

百歩譲って、私の記憶がそこだけ抜け落ちているとしても、私は怪我すら負っていない。もしも学校の屋上から落ちたのなら大騒ぎになってるはずだし、両親からの説明もあるはずだ。