「いいからとりあえずこっちに来なって」
「………」
「ちょっと聞いてるの?」
三階建ての校舎は屋上も含めると約十二メートルはある。普通だったら下を覗き込むだけで心臓が縮むだろう。
なのに、蒼井はそこから動こうとしない。だから、変なことを考えているんじゃないかと、こっちが手に汗を握っていた。
「ここから落ちたら死ぬと思う?」
「当たり前じゃん。いいから早く……」
「だよな」
なぜかその〝だよな〟の言い方が引っ掛かった。
「なにを……考えてるの?」
「同じところから落ちたら戻れるかなって」
同じところ? 戻れる? またその話?
いい加減にしてほしいけれど、蒼井の背中には決意のようなものが感じられて、これは本気かもしれないと思った。
彼の言ってることなんて半分以上は支離滅裂だし、理解もできない。でも、どこかへ戻るために屋上から飛び降りるなんて、冗談ではできない。
――『俺とお前。学校の屋上から落ちたんだ』
そんなの記憶にないし、私は知らない。信じられるわけがないし、信じたくもないけれど……。
「あんたの言ってることは全部本当なの?」
彼の話を少しだけ聞いてみようと思った。本当に頭がおかしいかどうかは、それから判断すればいい。
「言ったろ。俺は本当のことしか言わないって」
蒼井がにこりとした。
その逆光の中で、彼ではない〝もうひとりの別の人〟が見えた気がして、気づけば私の右目から一筋の涙が伝っていた。
なんで涙が出たのか、理由はわからない。
わからないから今は、眩しさのせいだと思うことにする。



