「あかり」
人が行き交う昇降口。自分の下駄箱を開けてローファーを取り出したところで同じクラスの市川美保が肩を叩いた。
「ねえ、本当にカラオケ行かないの?」
「ごめん。ちょっと風邪気味でさ」
美保とは席が近くて連絡先を交換してから仲良くなった。今では放課後遊びに行ったり学校でも常に一緒にいることが多い。
「なら仕方ないね。元気の時にまた行こうね」
「うん。ありがとう」
美保は名残惜しそうに別の友達とカラオケに行った。
「あれ紺野。今日は一人で帰るのか?」
正門には下校指導をしている担任の濱田先生が立っていた。
「最近不審者の目撃情報があるから気を付けて帰れよ」
「はーい」
濱田先生はなにかと気にかけてくれるいい先生だ。挨拶してもシカトする生徒が多い中で、めげずに声をかけ続けているし、みんな当たりの担任でよかったねと口を揃えて言っている。
ああ、そんなことよりなんか雨降りそうだな……。折りたたみ傘を持ってきてよかった。