誰もいなくなった病室でまた蒼井とふたりきりになった。
両親のこと、濱田先生のこと、まりえのこと、市川さんのこと。たくさん、たくさん、彼に話したいことがある。
彼はきっと過度に喜んだりしない。
へえ、よかったじゃんって、反応はそれだけかもしれない。でも、たった一言でもいい。
蒼井からもらう言葉やその存在は、なにものにも変えられない私の光だから。
私はそっと、彼の手に触れた。温かくて優しい体温が、ここにある。
――『お前、まだなんにも思い出さねーの?』
初めて会ったのはあの雨の中。高圧的な物言いで、関わりたくないって思ってた。
私が悩んでいても冷めた態度をするだけで、ちっとも慰めてはくれないし、ウジウジと考えてるやつは普通にぶっ飛ばしたくなる、なんて言われたこともある。
苦手だった。ものすごく。
けれど、蒼井はいつだって私の背中を押してくれた。
苦しくてどうしようもない時には、傍にいてくれた。
自分を褒めろよって認めてくれた。
――『紺野、頑張れ』
初めて名前を呼んでくれた時、本当に嬉しかった。



