蒼井はまだあの世界にいるのだろうか?
もしかして、そっちのほうが居心地がよくなっちゃった?
ねえ、私は現実に戻ってきたよ。
蒼井が戻れ戻れって言うから、今地に足を着けて頑張ってる。
あれだけ私の背中を押したなら、蒼井も戻ってきなよ。
じゃないと私は……。
……コンコン。その時、病室の扉がノックされた。
「あら、あかりちゃん」
それは蒼井の病室を担当している看護師さんだった。毎日通っていたら看護師さんとも顔見知りになり、今では名前で呼ばれている。
「お花貰ったからおすそわけしようと思って。もしかしてあかりちゃんもお花とか持ってきた?」
「いえ、そういうキャラでもないかなって」
彼の病室の花瓶をせっせと替えるほど私は乙女ではない。むしろそんなことをしてたら彼に『似合わない』とバカにされそうだ。
「そういえば蒼井くんの家に連絡してるんだけど、なかなか繋がらなくて……」
彼のお父さんが病院を訪れたのは最初の一回だけと聞いた。あとの手続きや彼の身の回りのことは、すべてお手伝いさんらしき人がやっているそうだ。
「大丈夫ですよ。文句なら本人が言いにいきますから」
というか私が無理やりにでも行かせる。
彼の現実はまだ止まってしまったまま。でもその続きは彼が作り上げていくことだ。
私も少しずつ動き出した。
だから早く、蒼井も動いて。



