帰り道。私は家と反対方向に向かっていた。電車に揺られること三十分。私はここら辺では一番大きいとされる大学病院に着いた。
広いロビーに高い天井。会計待ちの電光掲示板が絶え間なく表示されている。
私は外来の待合室を過ぎてエスカレーターで三階に上がった。【脳神経外科】と書かれた場所に行き、入院患者がいるフロアに到着する。
廊下の一番突き当たり。603号室の扉をゆっくりと開けると、窓からは夕焼けの光が射し込んでいた。
ピッピッと響く心電図の音。私はベッドに近づいて、側にある丸い椅子に腰掛けた。
「あんたの寝顔、そろそろ見飽きてきたよ」
声をかけた先には、蒼井がいる。
目覚めてすぐ彼のことを尋ねたら、私とは別の病院へ運ばれたことを告げられた。
あの日、私を庇うように落ちた彼は全身を強く打ち付けていて、息もわずかにしかしていなかったそうだ。
すぐに手術をされて、一命は取りとめたものの、今もまだ目を覚まさない。
先生いわく、目覚めるのは明日かもしれないし、一年後かもしれないし、ずっとこのままという可能性もあると聞かされている。
退院してからずっと私はこうして病室を訪れているけれど、彼はピクリともしないままだ。



