青の先で、きみを待つ。







それから一カ月後。私の朝は今日も慌ただしく始まっていた。階段をバタバタと駆け下りてリビングのドアを開けると、台所に立つお母さんに声をかけられた。

「あかり、おはよう」

挨拶を返す前に、焦げた匂いに気づく。新品のエプロンを身に纏っているお母さんの手にはフライパンが持たれていて、そこには黒い物体が見える。

「……もしかして目玉焼き?」

「ごめん、また失敗しちゃって……」

「はは、いいよ。それよりお弁当は……」

「作ったんだけど、ほら」

最早おかずとは言えないほどのものが詰められている。でも一生懸命作ってくれたんだってわかる。

「私、これでもいいよ」

「ダメよ! 次はちゃんと作るから今日は食堂で食べて?」

「うん、わかったよ」

お母さんは変わった。

私が眠っていた五日間もずっと傍にいてくれたと先生から聞いたし、こうして自宅に帰ってきてからも、お母さんは私のことをちゃんと気にかけてくれている。

ここはあの理想の世界ではない。

けれど、少しずつ、ゆっくりと現実世界も新しい日常になりつつあった。

「いってらっしゃい」

お母さんに見送られて、私は外に出る。

なぜ屋上から飛び降りることになったのか。

私のことを心配したお父さんも病院に来てくれていたので、打ち明けるのはこのタイミングしかないと、ふたりに学校でいじめを受けていたことを告白した。

ふたりは、いじめの加害者である生徒とその親に話に行くと言ってくれたけれど、私はそれを断った。

同時に高校を変えて別の場所で暮らす提案もされたけれど、私は首を縦には振らずに、今もあの苦しかった高校に通っている。