「私って、一番迷惑をかけたの蒼井だよね」
「はっ、今さらかよ」
「ねえ、前に蒼井がここから飛び降りようとした時があったじゃん。あの時ね、逆光の中に蒼井じゃない別の人が見えた気がしたんだ」
あれは体育の授業中。屋上に立つ彼の姿を見つけて、慌ててここへ来た時のことだ。
「別の人?」
「うん。今思うとあれは私だった」
私の最後の記憶は足を踏み出した瞬間で終わってる。だから私がどんな顔をして、地上までの数秒を落ちたのかはわからない。
でもね、本当はずっとずっと誰かに止めてほしかった。
もしも、蒼井が私を助けようと手を伸ばしているところが見えていたのなら、私はきっと涙を流してその手を掴んでいたんじゃないかって、今さらそんなことを思うよ。
「ずっと言えてなかったけど、私を助けようとしてくれて本当にありがとう」
私は自分のことなんて、なんの価値もないし、必要とされてないし、誰よりもダメな人間だと思ってきた。
でも、全然ダメなんかじゃなかったね。
私に足りなかったのは、自分のことを好きになるという気持ちだけだった。



