「信じるよ。あかりが言うことならなんでも」
「……美保」
この世界が本物じゃないと気づいた日。今の家族も学校も友達もみんな偽物だから笑えるぐらいどうでもよくなったと私は言った。
だけど、どうでもいいならこんなに泣けたりしない。
ずっと認めないようにしてたけれど、どうしても気持ちが溢れ出す。
「私ね、けっこうこの世界が好きなんだ」
ここはとても居心地がよくて、気を引き締めないと、この世界に残りたいと思ってしまう。
「それならここにいなよ。ずっとずっといればいいよ」
美保がそっと抱きしめてくれた。
彼女の体温が温かい。こうして誰かに抱きしめられたのは初めてで、また涙が出てくる。
「あかりは辛いからここに来たんでしょ? だったらわざわざ苦しいほうを選ぶことはないよ」
私を必要としてくれる人がいる。
私もここにいたい。
ここでだったら笑っていられる。
だけど心が引っ張られる。
現実の世界の私がまだ生きてるとしたら、どうして私のことを呼ぶのだろう。
答えなんて、もう決まってる。
「美保。私やりたいことも、したかったこともここで全部が叶った。でも叶えたいと願ったのは、この世界じゃない」
だから私は私に、戻ってきてと言ってるんでしょう?
それから私と美保は夜が明けるまでずっと話し続けた。時には泣いて、時には笑って。その間、私たちの手が離れることはなかった。



