彼は不機嫌そうに頭を掻きながら私に近付いてきた。キュッキュッと上履きの擦れる音が止まる頃には、目尻のホクロがわかるくらいの距離になっていた。
「な、なに?」
なぜか蒼井は私のことをじっと見てるだけで、なにも言わない。
身長差があるぶん威圧感がすごいし、見下ろされていることにも慣れないし、とにかくこの空気には耐えられそうにない。
「い……言いたいことがあるならはっきり言ってください」
さっきの威勢はどこへやら。思わずまた敬語を使ってしまうほど、私は縮こまっていた。
「はっきり? 言っていいの?」
そ、そう言われると返事に困る。
嫌なことなら聞きたくないし、むしろなにを言おうとしてるのか見当もつかないけれど、このままモヤモヤとするよりはずっといい。
「大丈夫だから言って」
私は泳いでいた視線を彼に向けた。
こんなにもったいぶってるわりには、どうせ大したことではないんだろう。おかしな因縁をつけられる間柄でもないんだし、もしもしつこくされたら、信頼している濱田先生に相談すれば問題ない。
「お前、死んだんだよ」
「へ?」
「俺とお前。学校の屋上から落ちたんだ」
それは私の想像をはるかに……本当にはるかに越えすぎている言葉だった。



