青の先で、きみを待つ。




おそらくだけど、彼は事件の偵察に来たと思われる。みんながどんな反応をしてるのか。どれだけの騒ぎになっているのか。

それらを確認しつつも、保坂は自分が怪しまれないように、まったく別の話を教師たちにしていた。

「本日伺ったのは先生方にご相談がありまして。実はうちの大学で今度交流会が開かれるんですが、在校生の中で参加する人を集めていただけないかと考えています。他校の生徒も大勢来る予定になっていますし、たくさんの人と情報交換をすれば将来の選択肢にも絶対に役立つと思うんです」

その口調はまるで、予行練習をしてきたくらい完璧だった。

校長先生を含む教師たちはもちろん保坂の口車を疑うことなく信じている。

胡散臭い笑顔を振り撒き、生徒たちもまた彼に対して尊敬の眼差しを向けていた。

……本当に、白々(しらじら)しい人。

交流会なんてどうでもいいくせに、在校生のことも考えてますよっていう理想の先輩像を作り上げて、なおかつ周りの反応を見ながら自分の評価を見ている。

どうして誰も彼の裏の顔に気づかないんだろうか。こんなにも嘘で練り固められた顔をしてるというのに。

「あ、そういえば先ほどなにか大きな事件があったと聞きましたが……」

保坂がわざとらしく、本題を振っていた。 

「ああ、そうなんだよ。今も警察の人がいろいろと調べてくれてるけど、なかなか、ね」

「犯人に心当たりはないんですか?」

「それは………」

口ごもる校長先生を見ていた生徒たちが野次を入れた。

「犯人は蒼井翔也だよ! みんなそう思ってるし」

誰かの声を皮切りに、みんなが「そうだ、そうだ」と頷いている。それを聞いた保坂の口元が緩んだのを私は見逃さない。

悔しくて悔しくて、ギュッと拳を強く握っていた。