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翌日。校舎にあった落書きは綺麗に消えていた。清掃業者が夜通しかけて仕事をしたそうで、今日は教室にも入れるようになっていた。
けれど、落書きが消えても、盗まれた物が戻ってきたわけじゃない。よって、生徒たちによる祭りごとは続いていた。
「なんか落書きの文字が蒼井翔也の字にそっくりだったらしいよ」
「だからあいつで決定だって!」
「盗みやる人って癖になってる人が多いって聞くし、またされそうで怖いんですけど」
噂は肥大化していて、疑惑から確信へと変わりつつあった。
彼が落書きなんて幼稚っぽいことをするはずがない。だけど当の本人があの調子だし、別の意味でため息ばかりついてしまう。
「あの先生……」
蒼井には探偵ごっこだと罵られたけれど、私はやっぱりどうでもいいと思えなくて、濱田先生に頼ることにした。
「紺野、どうした?」
「……事件の犯人のことなんですけど、昨日駅前で怪しい人を見かけました。おそらく、うちの卒業生だと思います。その中のひとりが保坂と呼ばれていました」
言葉を選んでも伝わらないと思い、ありのままのことを先生に言った。
「保坂? それって保坂幸成のことか?」
保坂幸成? 下の名前まではわからないけれど、卒業生で保坂という人はひとりしかいないようで、どうやら、先生の教え子だそうだ。



