青の先で、きみを待つ。






それから数日が経って、私は今日もこの世界で目が覚めた。

リビングに向かうとトーストのいい匂いが漂っていて、朝から換気扇が元気よく回っている。

「あかり、おはよう」

エプロンをつけたお母さんが笑顔で振り向いた。

記憶が戻らない時にはなんとも思わなかった光景だけど、今は現実のお母さんの姿と重ねてしまう。

お母さんはこんなふうに朝ごはんを用意してくれる人ではなかったし、笑いかけてもくれなかった。

期待をすればするほど自分が落ち込むということがわかってからは、お母さんになにも望まなくなった。

でも、こうして優しくしてくれるお母さんが目の前にいると、私はこれを求めていたんだなって、気づかされる。

「どうしたの?」

「お母さんって、耳にホクロがあるんだね」

「え、やだ。なによ、急に」

「ううん。ただ、あったんだなって思っただけ」

お母さんが私のことを見ていなかったように、私もお母さんのことを見てなかったんだと思う。

「今日夕方から雨だって。傘はどうする?」

温かい朝食が終わったあとは、いつものように玄関まで見送ってくれていた。

「折り畳み傘ならカバンに入ってるから平気だよ」

「あ、そうだ。前にあかりが言ってた黄色とオレンジの小花柄の傘のことなんだけど、あれから気になって探したけど見つからないのよ。気に入ってたなら後で同じものが売ってないか見に行く?」

その言葉に、私は首を横に振った。

「ううん。もういいの。行ってきます」

「そう? いってらっしゃい。気をつけてね」

空を見上げると雲の流れが早かった。 

……黄色とオレンジの小花柄の傘。記憶が戻ったことで傘の行方も判明した。

あの傘は同じ花柄好きということで、駅前の雑貨屋でまりえとおそろいで買ったものだ。

でも、それがここにあるはずがない。

だって傘はまりえに折られた。それで私は、まりえに残っていた愛情ごと傘を粗大ゴミと一緒に捨てたんだ。