「……蒼井は前に、この世界を私のためだけの世界だって言ったけど、もしそうならこれも私が望んだことだったと思う?」
ここは私の都合にいい場所だ。
仲の悪かったお母さんとお父さんは仲良しで、温かいご飯と優しい家族は私が欲しかったものだ。
私のことをいじめていたまりえは、私と同じような目に遭っていて、助けた美保とは友達同士という関係性。
きっと、そうだったらいいとか、こうだったらよかったとか、私の願望が叶えられている世界なんだと思う。
「でもさ、私は結局、こっちでも上手くやれてない。せっかく現実で学んでたっていうのに、またいじめに首を突っ込んで、自分の立場を悪くしてる」
もしかしたら、新しい私になるチャンスだったのかもしれない。
なのに、同じことを繰り返した。
私はどこにいっても、私のままで変われない。
「お前さ、こっちで同じことをした時、最初になんて言ったか覚えてないの?」
「え?」
「すごいことをしたって自分で言ってたじゃん。だから、いじめられてるやつを見過ごすことができなくて、助けようとすることは、すごいことなんじゃねーの?」
「………」
「いい加減、自分を褒めろよ。バカ」
ぽつりとコンクリートが濡れていく。空は晴れているから、雨なんかじゃない。



