青の先で、きみを待つ。




制服は保健室で干してもらえることになった。一応担任には事情を説明したけれど、ジャージ姿の私は恥ずかしいほど教室で浮いていた。

「あれ? 橋本(はしもと)はどうした?」

数学の先生が空席を見つけて名前を呼んでいる。

「わかりませーん。トイレじゃないですか?」

「橋本さん生理痛がひどいらしいでーす!」

一部の女子がクスクスと笑っていた。そんな様子に他の人たちは慣れたように無反応だった。

橋本まりえ。きっかけは知らないけれど、彼女はある日を境にいじめられるようになった。されていることは陰口を言われたりノートを破かれたりと小学生みたいなことだけど、それは日に日にエスカレートしている。

おそらく彼女のことも、彼女に嫌がらせをしてることにも、見て見ないふりが上手くなったのは私だけじゃないはずだ。

「ねえ、紺野さんって数学得意だよね? 今日当たるから教えてほしいな」

そう言って、話しかけてきたのは後ろの席の女の子だった。

「うん。いいよー」

「ありがとう! ってかライン交換しない? 紺野さんってめちゃくちゃ可愛い小物とかいっぱい持ってるよね! 私も好きなんだ」

「あ、これね、ほとんど自分で作ってる。このスマホケースもそうだよ。100均のやつ買ってきて自分でペイントした」

「うっそ! すごすぎ! 今度私にもやり方教えて? 今日からあかりって呼んでもいいかな。私も名前でオッケーだからね!」

「はは、うん。わかった!」

私の学校生活は順風満帆で、毎日が楽しい。

友達もたくさんいるし、橋本さんのことをいじめている女子たちとも普通に話したりする。思えば私は孤独とは無縁で、小学校も中学校もそれなりに満喫していた。でも充実度でいったら、今が一番かもしれない。