やわく、制服で隠して。

その日、深春と手を繋いでお互いの家までの道を、途中まで一緒に歩いた。

明日彼氏と別れるんだとしても、失恋だとかって焦燥感は無い。
寂しさも悲しさも、不思議と憤りも無かった。

相手に対して本当の恋をしていなかったのは私も同じで、だからこそ彼にとっても都合が良かったんだろう。

結局は何も分からない子供だと思われていたってこと。
それは少しだけ悔しかったけれど、事実だ。

何も分からないまま、考えもしないまま大人と付き合うって優越感だけで手にした恋愛で、バチが当たっただけだ。

深春の存在が無かったら、今日だって何をされたって私は自分の中で言い訳して、消化して、この恋愛ごっこを続けていたのかもしれない。

「深春、ありがとう。」

「何が?」

「何でも無い。居てくれて、ありがとう。」

深春は返事をしなかったけれど、握っている手にキュッと力が入った。

「ねぇ、ところでさ、私ってギャルだと思う?」

唐突に訊いた私を、深春が見ている。

「何で?」

「彼氏が、私はギャルだって。」

「うん、まぁ…派手だよね。周りよりは少しだけ。」

「話しかけにくかった?クラス替えの時とかさ、いつも話しかけられないんだよね。私もそういうの苦手で自分からもあんまり行かないし。」

「んー。ちょっと、そうかもね。」

「深春はどうして話しかけてくれたの?」

深春が立ち止まった。
手を繋いだままだったから、先に歩こうとしていた私も引っ張られる形で止まった。
深春がジッと私を見ている。

「その髪の毛。」

「髪の毛?」

初めて深春と話した入学式の日。
深春の髪の毛が綺麗だなって、ドキドキしたことを思い出した。

「似合ってないよって言いたかったから。」

「…え、髪…はぁ!?それだけ!?ひどーい!」

思いがけない理由に、大きい声が出てしまう。
深春はクスクスと笑っている。

「うそうそ。本当に名前が似てるねって言いたかったからよ。それに他の子とは違う気がしたから。あぁ、でも、髪色は本当に似合ってないかな。」

「全然嘘じゃないじゃん…。」

髪の毛をすくって眺めて見るけれど、周りが薄暗くてよく分からない。
もう見慣れてしまった髪色に、自分では何も思ったことは無い。

“他の子とは違う”
そう言った理由は、聞かなかった。

本当は聞きたかったけれど、深春が歩き出してしまったから。
早く帰らなきゃいけなかったから。

そんな理由をいくつもいくつも並べては、深春の答えを先延ばしにした。
いつかきっと教えてくれる答えを。