有佳からの電話のあとは何をしたのか覚えていないくらい心ここにあらずだ。

しっかりとした父になろう。

帰宅したオレを有佳が出迎えてくれてる。
暖かい家庭

でも、
なにか少し違和感があった。

いつもなら、夕食が並んでいるダイニングテーブルにはノートパソコンと茶封筒が置かれている。


「金曜日にこの時間に帰ってくるのって久しぶりだね」

胸騒ぎがする。
「あ・・うん、そうだね。今までごめんね」

「そのごめんねは何に対して?」

逃げ出したい思いに駆られる。

「え?」

「ダイニングテーブルの方に座ってくれる?今、お茶をいれるね」

「いや、オレが淹れるよ。有佳は座っていて」

とりあえず、お茶を入れながら深呼吸がしたかった。
金曜日とか残業とかそんな言葉に反応してしまったが、単に妊娠の報告かも知れない。
いつもはダイニングテーブルでパソコンを広げない、もしかするとエコー写真みたいなものがあるのだろうか?

飲みやすいようにマグカップに緑茶を入れると一つを有佳に渡して、もう一つは自分の前に置いた。

「それで、どうだった?妊娠だった?」


「妊娠なんてしてないわ、もう一ヶ月以上も賢也は私とはしてないでしょ。それに、賢也が大森恵美さんとセックスしている間にわたしには生理が来てるから」

有佳は冷たい表情で淡々と言い放つ、その言葉は氷の刃となって胸に突き刺さった。

田中に聞いたときはまだ、半信半疑だった

「有佳が・・・か・・・会社に来たっていう話を・・き・・・いたんだけど・・そ・・・」

「大森恵美さんに話を聞きに行きました」

それでも、この幸せを手放す訳にはいかない
「彼女が何を言ったかは知らないけど、オレは」


有佳は茶封筒から時系列にオレの行動が印字された“報告書”という書類と、大森さんと行ったホテル、大森さんのマンションに入って行く男女の写真・・・オレと大森さんの写真が並べられていく。
身体から力が抜けていく。

「賢也が毎週金曜日、残業の日はいつも同じ香水がシャツにつていいる事に気がついたの。不安で仕方が無くて勇気を出して賢也を誘っても抱いてくれなかった。香水の人と何かあるから私とはしたくないんだと思った」

「ちが・・」

「だから、たまたま見つけた探偵事務所に調査をお願いしたの。もちろん、それは私が結婚前にためていた預金からだしてます。賢也が知らない女性とホテルに入って行ったと言う報告をうけても、どこかにまだ賢也が私を愛してくれていると思っていた。だから、もう一度誘ったのに断られて、完全に私への思いは無いんだと悟りました」

「違うんだ、聞いてくれ」
ちがうんだ、オレはオレは・・・
「う・・・浮気は・・・して・・た・・でも、有佳を愛してるんだ。だから、大森さんを抱いたあとに有佳を抱けなかった。有佳に誘われて嬉しかった,初めてのことだったから、でも浮気をしてきて有佳を抱くのは穢してしまうんじゃ無いかと思ってできなかった。何度も、やめようと思ったんだ。本当だ」

「でもやめなかった」

そうだ、やめなかった。

罪悪感はあったのに、どこかにバレなければと言う気持ちがあった
「それは・・・本当にごめん、謝っても許してもらえないと思うけど、愛してるんだ。大切なのは有佳なんだ。傷つけておいて何を言ってるんだと言われても、オレが愛してるのは有佳なんだ」

手が・・・足が震えてくる

汗がでるのに、喉はカラカラだ




ピンポーン


こんな時間に誰だ?