「それなら総務の大森さんのことどうする気だ?」

何を言ってる?何を知ってる?
喉がひりついていく

「何の事だ」

田中は冷静だ

「受付の三輪さんと付き合ってるんだ」

「え?」話が飛んで何を言いたいのか分らない
「そうなんだ・・・で、その三輪さんがどうした?」

田中の交際の話は今は必要ない。それよりも大森さんのことだ。


「昨日、受付に奥さんが来たんだって、対応したのが俺の彼女なんだ」


足下からなにかが崩れ落ちていく


「奥さんが総務部の大森恵美さんをお願いしますって、呼び出したあとしばらく二人で話をしていてたらしいけど、奥さんはすごく落ち着いているように見えて、大森さんはかなり興奮しているようだったって」

もう、何も言えなかった。
有佳はすべてを知っていた。大森さんの名前もフルネームで知っていたということだ。
無言で俯く俺に構わず田中は話し続ける。

「もう一人の受付の子は気づいて無いって言ってたから、たぶん知ってるのは彼女だけだと思う」

「それで、いきなりここに来たいって言い出したのか」

「ああ、大森さんと不倫なんてどうなってるのかと思って、俺が言うのは筋違いだとと思うんだが」
「奥さんを大切にしろよ」

「ああ、教えてくれてありがとう」

「おい!なんだよ全然片付いてないじゃん」
キッチンの片付けをしていた斉藤がリビングに戻ってきた。

「ああ、ごめん」

三人で片付けをしたあと二人は帰っていった。

有佳の様子がおかしかったのは、すべてを知っていたからだった。
しかし、知っていてなお何も言わないのは有佳もこの二人の生活を壊したくないと思っていてくれているのかも知れない。


それなら、オレからは何も言わない。


昨日、大森さんからの通知が多かったのはそいういうことだったんだ


有佳の顔が見たい・・・・

書斎に入ろうとドアノブを回したが開くことはなかった。



いつの間にかこのドアノブに鍵がついていた。