「毎週金曜日は残業で、ワイシャツからはいつも同じ香がするということだね?」

「はい」




どうぞと言われて扉の先に入ると、室内は荒れていた。

「事務兼、アシスタントがやめてしまってからこんな感じになっていて」
頭を掻きながらそう言うと、ソファに置かれた雑誌や服をまとめ端に寄せると、どうぞとすすめられたが、それでもかろうじて人一人が座れる状態だ。

おずおずと座ると、男は松崎朗(まつざき あきら)と名乗って名刺をくれた。


ソファに座ると堪えていた物が緩んでしまい涙がとまらなかった。

誰にも相談できず、ずっと不安に襲われていた

松崎は泣いている私に何も言わずココアを淹れてくれて泣き止むまで待っていてくれた。







「まぁ、言いにくいけどダークグレーだね」

賢也を信じたいと思っている自分でもそう思うのだから、第三者からみればそうなんだろう。

松崎は気を使ってダークグレーという言い方をしているが、きっと真っ黒だ。

「金曜日という曜日や時間もほぼ決まっているならピンポイントで動くことができるので、手付金が10万で出来高報酬として証拠と報告書の作成で15万、合わせて25万で調査をできます。出来高制なのでご主人が浮気をしていなかったら、手付金の10万しか掛かりません」

正直25万円が安いのか高いのかはよく分らないが、25万で今までの生活が変ってしまう。

でも


何も無ければ、自分の思い違いだったら




「この金額が片桐さんにとってどれくらいの重みかは分らないです。分割でももちろんかまわないですが、25万もしくは10万で気持ちをリセットすることができるのではないですか?」
「もちろん俺は仕事だからこの案件を引き受ければお金になる。だからビジネスで話をしていると思われても仕方が無いとおもいますが、このままずっと疑って不安になって今のようにちょっとした刺激で涙が止らなくなる。そんな生活をずっと続けていくんですか?」

何も言えずに俯いていると

「それでも今はここに来たときよりも顔色がいいですよ。調査についてはもう一度じっくりと考えて見ればいいと思います。」

そうだ、今私はここに来る前よりも気持ちがすっきりしている。
ずっとモヤモヤとして、誰かに話すこともできなくて苦しかった。呼吸が難しかった。

松崎さんに話して泣いたら呼吸が安定した。

「今日一日考えてみます。ありがとうございました」

松崎は優しい笑顔で「どういたしまして」と言うとドアを開けて見送ってくれた。