いつも通り、有佳が玄関まで見送ってくれる。
愛おしくて「行ってくるよ」と声をかけてから頬に触れようとしたら有佳が後ずさりをした。

一瞬、体が硬直した、悟られないように微笑んでから外に出た。
金曜日の夜から有佳はよそよそしくなったように感じる。有佳から誘ってくれたのはうれしかったのに、オレのバカな行動のせいで大切な人との間に溝を作ってしまった。

きちんとケリをつけなければ








ブブブブ・・・ブブブブ・・・ブブブブ・・・

「片桐のスマホ、スゲー通知来てるけど見なくていいの?」

「あああ、悪い。うるさいよな」
彼女からの甘ったるい言葉がならんでいる、総務課はそんなにヒマなのか?
いい加減にしてほしい。

『仕事中にLINEを送ってくるようならブロックする』
と返すと、それきりLINEが入ることは無かった。




有佳との時間はオレにとって大切な時間で、有佳の料理を楽しみながら過ごしていた時にLINEに怒濤の勢いで通知が届く。
誰からかわかっているが有佳に見られたくなくて、一瞥するとスマホを裏返した。

「そんなにたくさん通知が来るって、急ぎかも知れないよ?」

「そ・・そうかもね」
これ以上通知が入れば有佳も変に思うかも知れない、あわててリビングに行きトークを確認する。

「離婚はどう?」
「賢也くん好きだよ」
「早く会いたい」
「金曜日以外もいいよ」
「未読無視ってなに」
「返事ちょうだい」
「賢也く~ん」
「仕事中ダメっていうから」
「お~い」
「電話しちゃうぞ」





くだらない言葉が並んでいる、こんなLINEは有佳はしない。

「はぁ」ため息をついて『こんな風にメッセージを送ってくるならもうLINEはやめよう』と入力して送信する。

するとすぐに返信があり
『ごめんね、ちょっと寂しくなったからかまって欲しかったの』
『おやすみ』
のあとに唇のスタンプが送られて来た。

返事はしなかった。


そして、夜はまた有佳に拒まれた。