「どういうこと?」

「不倫は二人で行った事です。お互い思い合って恋人気取りでいても、あなたは既婚者なんです。私は不貞者二人から慰謝料を支払っていただく権利があります」

「うん・・・それは、分ってる。本当にごめん、そこじゃなくて条文がオレのとは違うんだ」

「ええ、慰謝料を支払ってもらえれば好きにしていいし、賢也は今ここで離婚届にサインしてもらおうと思っているからその文章は入っていないわ」

用意していた離婚届と印鑑を目の前にだす。

「有佳、お願いだ。考え直して欲しい、もちろんオレはもう二度と有佳を裏切るようなことはしない。別れたくないんだ。愛してるんだ。どうか」

「私は、賢也に愛情を感じなくなってしまった。賢也に拒絶された夜、哀しくて悔しかった。もう決めたの」

「離婚を思いとどまってくれたら、オレは何でも言うことを聞くから。何でもする。チャンスが欲しい」

そう言うと私の前に来て土下座を始めた。

「お願いだ、やり直してほしい」

「あんなに大森恵美と結婚したがっていたのに」

「オレは有佳と別れて大森さんと結婚するなんて思っていないし、大森さんにも本命の恋人がいるんだ。お互い遊びのはずだったのに、どうして急にオレに執着するのかわからないんだ」
「お願いだ」


これ以上話をしても時間の無駄になりそうだったから、賢也あての書類以外はパソコンや書類を一旦片付けた。

「月曜日の3時までに大森恵美の200万円を指定口座にいれてくれる?月曜日に入金確認ができればもう一度話し合いましょう。もし、入金確認ができなければ離婚訴訟をおこします」

「ありがとう」と土下座したまま話す賢也の横を通って自分の部屋に戻り鍵を掛けた。


いくらなんでも土日を挟んだ月曜日に200万円を振り込みできるとは思わない、私は賢也に猶予を与えるつもりは無い。