「大森恵美さんからでしょ?」

小さく頷く姿を見ながらどんどん冷めていく私がいた。
幽体離脱のように天井から自分をみつめているようなそんな感じだ。

「スピーカーにして電話に出て」

賢也の顔から汗が流れる。
そんなに暑くないのに・・・人って焦ると本当に汗がでてくるんだ

「でも・・」

「出て」
強い口調で言うと、諦めたようにテーブルにスマホを置くと通話ボタンをタップしスピーカーに切り替えた

『賢也くん、もうっ!どうしてLINEも電話も返事がないの』

「連絡はしないでくれって言ったよね」

『奥さんが怖くなったの?でももうバレてるわよ』

「ああ、知ってる」

『それでね、示談書が届いたんだけど』
賢也は驚いた表情で私を見る。
『200万を払えって書いてあるんだけど、こんなに払えない。どうしよう賢也くん助けて』

私は賢也に“あなたが払ってあげれば?”とメモ書きして見せると、メモを握り締めて

「いくらまでなら払えるの」

『う~ん100万ならなんとかできると思う』

「それならのこりの100万はオレが出すよ」

『本当!良かった、これでまた会えるわよ』

「どういうこと?」

『条文に、慰謝料を支払ったら支払日以降の交際については自由とするって書いてあるの。それって、お金さえ払えば奥様公認の恋人になれるってことよね』

「お金についてはまたあとで電話する」
賢也は通話解除ボタンをタップした。