背筋を伸ばし、頭をかしげながらニッコリと微笑む、大森恵美が何かをいう間に先制をかける。

「賢也の浮気相手の大森恵美さんですね?って、確認は必要ないですよね」

「何のことでしょう?」

「先ほどもいいましたが、時間を無駄遣いしたくないんです」
そう言ってから
賢也と二人でホテルに入っていく写真と出てくる写真とさらに、大森恵美のマンションに二人で入って行く写真をテーブルに置くと、大森恵美はあわてて写真を手で隠した

「何?こんなところでわざと写真を出すなんて、誰かに見られたらどうする気?」

「別にどうもしません、大森さんがとぼけるからです。ただ私は事実確認がしたいだけですから」

目の前でみるみる顔面が赤くなっていくのがわかる。
怒髪天を衝くとはこういうことかも知れない。

「なら、わたしもいいますけど、いったいいつになったら離婚するんですか?賢也くんがかわいそう」

「賢也がかわいそうとは?」

大森恵美は今度は口の端を上げ作りものの笑みをたたえながら身体を乗り出すと
「性の不一致も十分な離婚の原因になるとおもいません?マグロ女じゃ賢也くんがつまらないって、だからわたしが慰めてあげてるの。それに、賢也くんもわたしと再婚したいのにマグロ女が離婚に応じてくれないって嘆いているのよ。かわいそうでしょ」

「マグロ女ってだれか分ってるわよね?お・く・さ・ま」
「だから、さっさと別れなさいよ」

心の中で深呼吸をする。
松崎さんのことの会話を思い出しながら大森恵美の言葉をやり過ごす。

「慰めるとはどういうこと?相談に乗ってくれているんですか?」

今度はあからさまにバカにしたような表情になる。

「そんなだから、つまらないって言われるのよ。あなたとのセックスがつまらないからわたしとセックスしてるの。すごく気持ちいいって。妻とは味わえないって、わたしの身体がたまらないって、分った?」

「それは、賢也と身体の関係があり不倫をしているということを認めるんですね?」

「不倫なんて変な言いがかりを付けないで、わたしと賢也くんは愛し合ってるの。恋人同士だけど、たまたま賢也くんが結婚していただけのこと。だから、さっさと賢也くんを自由にしてあげて」


私を挑発しているが、のってはいけない。
冷静に処理をしないと、あとで松崎さんに癒やしてもらおう

だから


がんばれ私


「賢也があたなと結婚したいと言っているんですか?」

「そうよ」

「賢也から離婚したいなんて一度も言われたことがなかったから、お話を聞けてよかったです」

大森恵美の目が見開いている。
さっきから百面相でやっているように、表情がコロコロと変っていく。

「事後報告で悪いんですが、今まで会話を録音してました。それでは失礼します」

大森恵美は「え?」と一言だけ呟いて固まってしまっているが、必要な話も聞けたので後ろを振り返ること無く出口に向った。