「有佳、今日も友達のところ?」

「ええ行ってきます」

「ところで最近は調子はどう?」
何を考えているのか賢也が肩に手をおこうとした事にとっさに反応して避けてしまった。
賢也は驚いた表情をみせたが、すぐに柔和な顔に戻った。

「明日、病院にいってくるから」

「そ・・・そうだね、体調が悪いなら今日はあまりおそくならないようにね」

「うん、わかった。ありがとう」
そう言って賢也を残して、事務所に向った。





初めて来たときは、入りにくかった入り口も賢也のいるあのマンションよりも居心地のいい場所になった。

大量にあった領収証も綺麗に整理され、会計ソフトはその役割を果たし始めた。

社会の中に自分の存在場所があるって、こんなに安心するんだ。
ずっとあのマンションの中で一人でいたら賢也を疑って心がぐちゃぐちゃになっていた。でも、今は与えられた仕事が楽しいそして、探偵事務所という職業柄、自分だけが裏切られて泣いているのではないと分った。

自分が自由を手に入れるための報告書を松崎さんに教えてもらいながら自分自身で書き上げていくことに変な気持ちになるが、色々と勉強になっている。

「鍵屋は有佳ちゃんが帰った後くらいに向わせるよ」

「ありがとうございます」

「それから、最終確認するけど離婚の方向でいいんだよね?」

「はい、賢也との生活は無理です」

「あの音声は盗聴だから、旦那さんの口を割らせたり追い込むには使えるが、裁判になったときは証拠としてつかえない。そこで、直接女から言葉をもらおうと思う」

「え?」

「彼女、大森恵美30歳、旦那さんとおなじ職場の庶務課勤務、そして彼女について調べたことと、あの音声データからすると結構焦ってる感じだし、なにより気が強そうだ」

「何をするんですか?」

「正妻と愛人の対決」

松崎さんはいたずらっ子のような表情をしていた。