「盗聴器の音声だけど、結構よくとれていたよ」
そう言うと松崎は赤と青の二本のUSBを有佳の前に置いた。

「赤い方はフルで青い方は会話の部分をまとめたもので、なんつうかフルだとさ、結構キツいかなって思って」

「キツい?」

「フルだとさ、喘ぎ声とかも入っているから」

そういうことか・・・ちょっと無理かも

松崎さんはそういう気遣いができて一緒に仕事をしていても安心できる。
男性としても魅力的だが、36歳独身らしい。
モテそうだけど、もしかすると遊んでいるのかもしれない。

青いUSBをパソコンに差し込むと、男女が話す声が聞えてきた。
一人は賢也でもうひとりはあの部屋の女性。


「ねぇ、離婚はいつ成立するの?」

「あぁ妻がなかなか承諾してくれなくて」

「お前みたいなつまらない女はいらないって言ってさっさと判子を押してもらったら、性の不一致って言って」

「それだけじゃ離婚の理由にならないだろ」

「奥さんの写真って無いの?」

「無いから見せられないよ」

「そんなに不細工なの?不細工でエッチもつまらないなんて賢也が可哀想」


知らず、涙が頬を伝っていった。

松崎さんが肩をぽんと叩くと缶コーヒーを差し出してくれた。

「ごめんなさい、哀しいというよりも悔し涙かもしれないです」

松崎さんは椅子を持ってきて黙って私の隣に座った。

「私は、賢也が初めての恋人で初めての人でした、だから賢也のするようにしか分らない。そんなに不満なら教えてくれればよかったのに。私はどこでそんなことを勉強すればよかったの?」

涙が止らなくなって苦しくなってきたところを松崎さんはそっと抱きしめて背中をトントンと子供をあやすように叩いてくれた。

「私はどうすればよかったの?」

「こんなかわいい奥さん、一緒に気持ちよくなる様に二人で“勉強”すればよかったのにな」

松崎さんが勉強と言う言葉を使ったことがおかしくて
泣きながら笑ってしまった。
「どんな勉強?」

「言葉では説明できないこと」

「それなら松崎さんが教えてください」

「離婚が成立したら、教えますよ。ただし俺はスパルタだ」

二人で顔を見合わせて笑った。
こんなに笑ったのはどれくらいぶりだろう

「ありがとうございます。すこし楽になりました」

松崎さんは頭をポンポンと軽く叩いてから自分のデスクに戻っていった。