結婚をしてから、この2LDKの中だけが私の世界だった。

社会と繋がる事がこんなにも嬉しく感じるなんて思わなかった。別に仕事が嫌でやめたわけじゃない、賢也が結婚後は仕事を辞めて家を守って欲しいと・・・・
私は家に閉じ込められて守られるだけの存在だった、でも今日から違う

「有佳、なにか楽しいことがあったの?」

「え?」

「なんとなく楽しそうだから」

いけない、仕事を始めたことはまだ秘密なんだから、気をつけないと。
「そうかな、久しぶりに学生時代の友人から連絡があったからかも」

「そう」
嘘をつけるのは賢也だけじゃない。
わたしも賢也の嘘の数だけ嘘をついていく。

「体調はどう?」

「うん・・・、少しはいいかな」

「じゃあ、今日は一緒に寝ないか」
そう言いながら賢也は私の髪を指で梳いた

すごく気持ち悪かった。

賢也は身体を求めてくるのが意地になっているように感じる。
でも、賢也が引く言葉を知っている。

「今週も金曜日は残業?」

髪を触る手が一瞬止る

「うん、ごめんね。でももう残業は無くなると思うから」

「そう、わかった」
そう言って“自分”の部屋に戻った。