引き継ぎ無しでの部長の交代は部内に混乱を起こしたが仕事に支障を出すわけにはいかず、部内は騒然としている。

『まったく、自分はいい思いして処分されたんだからいいけど、俺らが尻拭いするとか勘弁してくれよ』
『てか、離島の新部署って何』
『それな~』
『一人しかいないのに部長って』
『マジでそれウケる』

今まで社長の娘婿であることで、この部署のキングとして君臨していた桑原部長は羽をもがれた鷹でもう上空を飛ぶことはないだろう。

『でも、大森さんて確か既婚者キラーだったよな』
『あ~それ聞いたことある』
『独身の男に相手にされなくて、既婚者ばかり狙ってるって』
『誰とは言えないけど、1、2回ヤったって奴がいて、遊ばれてるのに自分はいい女でモテて困るとか言ってマジで笑った』
『って、それお前のことだろ』
『いやいや、知ってる奴ってことで』

仕事量も多い上に、聞きたくない噂話でなかなか仕事が進まない。

『そういえば、片桐って前の飲み会の時大森さんにロックオンされてなかったか?』
『ああそれ、俺も思った』

やめてくれ・・・
「別に、何も無いよ」

パソコンの時計が12:00になると「片桐、昼一緒にどうだ」と言う田中の一言で『もうこの時間だよ』とそれぞれ出ていった。

当事者でもあり、周りにそんな風に見られていたことに改めて自分のバカさ加減にうんざりした上に、昨夜から朝にかけてどん底の気分だったから、田中からの誘いはありがたかった。

会社の近くのファミレスに入り日替わりランチを注文すると二人でドリンクバーに向いエスプレッソをドリップしながらおいしい水と書かれたサーバーからグラスに水を入れた。

席に着いてから有佳に連絡をする
「今夜は残業になるから少し帰りが遅くなるよ」

「わかった、ごゆっくり」

「いや・・本当に残業なんだ」

「わかりました」
と言って通話を切られた。


身から出た錆とはいえ完全に信用をなくしてしまった事が今更ながら身にしみる。

はぁ・・・

「どうした、大きなため息なんてついて」
ジンジャーエールとアイスコーヒーを手にもって田中が席に着いた。

「まぁ、この顛末はな・・・部長の奥さんもなかなかの猛女だったんだな」

「大森さんのこと、おまえは知ってた?」

「ああ、既婚者キラー?まぁ・・・片桐の奥さんが会社に乗り込んできたときに彼女から聞いた。女性社会って結構、話題が豊富というか噂とか凄いんだなって」

「受付の三輪さんだっけ」

「しばらくはこの噂で持ちきりだろうな、まぁお前は奥さんのおかけで助かったんだから回りがザワつくくらいは我慢しろ」

ハンバーグに白身魚のフライ付け合わせの野菜と一口ほどのパスタがのったプレートとライスが並べられた。

「そうだよな」
そう答えて黙々と目の前のランチを口に運んでいった。