月曜の朝、桑原部長にミーティングルームに呼び出された。

部長がオレに何の用だろう?
人事異動にしては時期がおかしいし、何かのプロジェクトの打診だろうか?
だとしたら、仕事に打ち込める時間ができるのは今のオレにはいいかもしれない。


入室すると部長が一人で座っていた。

「片桐君、ドアに鍵を掛けてから座ってくれ」

かなり重要な案件なんだろうか?
言われたとおりにドアに鍵を掛けてからテーブルを挟んだ向いに座った。

「君を呼んだのは、ある話を聞いたからなんだよ」

なんだろう・・・

「総務部の大森恵美さんと営業部の片桐くんが不倫をしているという話を聞いたんだが」

頭の先から体温が失われていく、それなのに汗は大量に毛穴から噴き出していった。

「それは・・・そんなことは・・・」
喉がひりひりする、なんとか言い逃れる事ができないだろうか・・・シラを通すしか・・・

いいわけを考えているオレの前に数枚の写真が置かれた。
それは、有佳が持っていたのと同じ写真だった。

「こういう証拠写真もあるんだよ、言い逃れはできないし大森さんからも話は聞いているから」

大森さんが部長に言ったのか、部長に言いつけるという言葉ハッタリでは無かったということなんだ。

「さすがに、不倫はね。かばうのは難しいし、この会社にいるのだって辛くなるだろ。女性社員を全員を敵に回すようになるし、倫理的に問題のある君をだれも取り立てることもなくなる」
「まぁ飼い殺しされるとでも言った方がいい」

まさか、大森さんがそんなことをするとは思わなかった。
仕事を辞めても、次の仕事が見つかるのか生活はどうするのか頭の中は同時に処理しなくてはいけない事柄でパンクしそうだ。

「離婚の話がでているそうだね、それならばいっそ離婚して大森君と結婚したらどうだ。そうすれば、君は誠意のある人だと思ってくれる人もいるだろう」

なにを・・・・言っているんだ?

「妻とは別れるつもりはありません、話し合いをして離婚はしないと言うことに落ち着きました」

「家庭内ではそうかも知れないが、会社としては不貞をはたらいた人間に仕事を任せるのはねぇ。もし、離婚をしないのなら地方へ行ってもらうことになるよ」

「転勤ですか・・・・」

転勤ですむのなら、また有佳に迷惑を掛けてしまうがなんとか理解をしてもらおう。

「ただし、転勤先には単身赴任で行ってもらう。部屋も単身用の寮に入ってもらう、たぶんこっちに戻ることは絶望的だと考えてくれ」

「ど・・どうして単身赴任・・・」

「離婚して大森さんと結婚すれば、この話はわたしのところで止めてやろう。君は今まで通りに出世街道を進んでいくことになる。どうせ、家庭でも修復はむずかしいのではないか?」
「とりあえず、どうするべきか3日間時間をやるからよく考えろ」

それだけ言うと部長は立ち上がり、自らドアを解錠して出て行った。

残されたオレはただ呆然と椅子に座っていた。