僕は、今日ほど自分のことを情けないと思ったことはなかった。
雨音にこんな形で言わせるまで、ちっとも気づくことができなかった。

「雨音……ごめん……本当に……」
「謝らないでください……」

首を振りながらそう言ってくるのが、愛おしくて可愛くて仕方がない。

「私、謝って欲しいわけじゃないんです」
「うん」
「ただ、社長から必要とされないのが、惨めで、寂しくて……」
「ねえ、雨音。僕はね……君がいるから……頑張れるんだ。君がいなかったらもしかすると、今でも弱小企業の残念な社長のままだったかもしれないよ」
「残念なのは、変わってないと思いますけど」
「酷いこと言わないで」

そう言いながら、僕は雨音に軽くキスをする。
額と、鼻の頭、それに唇に。

「必要だ。ずっとそばにいて欲しい。本当は……」

ずっと言わないでおこうと思っていたけれど。
言わない方が良いと、思っていたけれど。
ここまで雨音に言わせてしまったのだから。
僕も言ってしまおう。

「君を僕の会社から手放すのは、本当は嫌だった」
「本当?本当に?」

目を輝かせながら、雨音が僕に聞いてくる。
こんな雨音の顔、いつぶりだろう。
僕は、返事の代わりにもう1度キスをしてから、強く抱きしめた。

「君を取り戻したくて、僕は頑張ってたんだよ」