「私もね、社長……不安だったんですよ……」

雨音が僕を抱きしめる手に力を込めた。
カタカタと、雨音が震えているのが背中越しに伝わってきた。

「社長は、ずっと私に何も言ってくれなかったじゃないですか」

それは、君に情けない姿をこれ以上見せたくなかったから。

「社長は……私を簡単に手放した」

それは、他の会社に行くことを後押しした時のことだろう。
身を切る思いだったが、それが彼女のためになると、本気で信じていた。
今でも、その判断は正しかったと思っている。

「社長は……私がいなくなった後にどれだけ大変だったか、私に教えてくれなかった」

それは、新しい世界で頑張っている君に、余計な心配をかけたくなかったから。

「社長は……私のことを、どう思っているか……ほとんど教えてくれなかった……」

それは…………。
…………僕の気持ちを伝えることで、負担にかけたくなかったから……。

「ねえ……社長……?私、寂しかったです。悔しかったです。辛かったです。社長の事、好きになればなるほど、社長が私に何も教えてくれないことが」

堰を切ったように、というのはこういうことを言うのだろう。
いつもの雨音では、決してこんな風に言葉を矢継ぎ早に言わない。

「社長、私は……社長が何も伝えたくないと思う程……信用できないんですか?」
「違う!!!」

雨音の口を塞ぐように、僕は雨音の唇に深いキスをした。