「……雨音?」

雨音の切羽詰まったような顔。
こういう時に絞り出した声は、彼女の心の叫び。
今、雨音の問いかけに間違った返事をすれば、今度こそ雨音の心が僕から離れるのでは……。
そんな恐怖が、身体中に満ちる。

「雨音は……僕にとって……」

大事な女の子。
一生一緒にいたい女の子。
守りたい女の子。
何でもしてやりたい女の子。

月並みの、陳腐なドラマのようなセリフしかでてこない、自分の気の利かなさが悔しい。
こう言う時、モテる男はどんなセリフを言うんだろうか。
もしくは、セリフではなく態度で示すのだろうか。
体を引き寄せて、抱きしめて、唇を合わせて安心させるのだろうか。

僕は、彼女の心を少しでも覗ければという些細な願いをこめて、彼女の目を見る。
涙が滲んでるのだろうか。
彼女の瞳の中にいる僕がゆらゆら揺れている。

ああ、これが、彼女が見えている僕なのだろうか。
芯がなく、ちょっと風が吹けばすぐによろけてしまう、間抜けな存在。
少なくとも、僕にはそう見えた。

「雨音」

そんな僕だからだろう。

「君は、僕にどんな言葉をかけて欲しいんだ?」

こんな、情けない言葉しか、出てこない。

「君が欲しいと思う言葉は、全部あげたいから」

でも、これが僕の本心だ。
僕にあげられるものは、何だってあげたい。だから……。

「どうか教えてくれないか?」

僕がそう言った瞬間だった。
僕の頬に、軽い痛みが走ったのは。