僕が運ばれた病院は、僕の家と同じ区内にあるとはいえ、とても徒歩で帰れる距離ではなかった。
朝まで休ませてもらった後、タクシーでの帰宅が許された。
会計からタクシーの手配までは、雨音が僕の代わりにテキパキと済ませてくれていた。

「帰りましょう」

雨音は僕の手を取り、まだフラつく体を支えながらタクシーまで連れてきてくれた。

「ごめん……」

こんな頼りない彼氏で。
そこまで言ったら、雨音に愛想を尽かされるのではないかと、怖かった。
すでに僕は色々とやらかしているのだから。
雨音は、僕の謝罪を受け入れてくれたのか、繋いでた手に力をこめてくれた。

「どこに行きますか?」

タクシーの運転手の問いかけに対し、僕が答える前に雨音が、正確に僕の家の住所と目印の場所を伝えた。
それは、きっと人によっては些細なことかもしれない。
だけど僕にとっては、まるで雨音とすでに夫婦になったかのような気持ちになり……ついにやけそうになる顔を隠し切るのが難しいほど、嬉しかった。