高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



上条さんは私を正直すぎると言ったけれど、やっぱり上条さんだってそうだと思う。

私の問いかけを適当にスルーすることも、答える必要はないと拒否することもできるだろうに、しっかりと向き合って答えてくれる。

それが嬉しくて、やっぱり顔がにやけてしまう。
上条さんと一緒のときの私は八割方頬が緩んでいると思う。

間抜けに思われたくはないものの、口の端が吊り上がるのは止められないから仕方ない。

「タイミングよく上条さんの前に現れることができてよかったです」

口元が緩むのを隠さずに言うと、上条さんはそんな私をじっと見たあと、ふっと笑う。

まるで〝呑気だな〟と呆れられているような笑みを眺めていて、ふと思った。

「社長業って、大変そうですよね。上条さんは仕事の愚痴とか、緑川さんに言ってるんですか?」

一概には言えないけれど、仕事で一番面倒なのは人間関係だと思う。
その点、上条さんは立場上いろんな人と関わらなければならないし、その苦労は相当だろう。

私なんて、お客様と直接かかわることのない部署だっていうのに、部長にうんざりしている状態だ。水出さんにももやもやしている。

たくさんの人と関わらなければならない上条さんはおそらくその比じゃないはずだ。

しかも、上条さんがなにを言うにも立場的に様々な問題が付きまとうせいで、私みたいに同期に気軽に愚痴を言えるわけでもない。

となると、唯一本音を言えるのは、秘書である緑川さんくらいしかいない。
そんな推測から聞いた私に、上条さんは「そうだな」とコーヒーを飲みながら答える。