高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



バイオリニストの女性とコンビニバイトの男性との恋愛ストーリー。三十歳目前の女性と、二十歳そこそこの男性という年齢差や、経済力の差など、様々な壁を乗り越え結ばれるふたり……というような紹介をされていたのをテレビで見た。

「あれの作者は、俺の高校時代の担任なんだ。小説に専念したいからと、俺たちが卒業するのと同時に退職した」
「えっ」
「まさか夢を叶えるとは思っていなかったから、受賞したときには驚いた」
「それは誰でも驚くと思います……」

昔の担任があんな大きな賞をとるなんて、私だったらすぐに当時の友達と連絡を取り合い騒ぐところだ。
きっと、ひとりじゃ驚きも喜びも受け止めきれない。

「もう読んだんですか?」と聞いた私に、上条さんがうなずく。

「話題作でもあったから、一応な。でも、いまいち理解できなかった。だからか、恋愛感情がどんなものなのかそれからなんとなく気になっていて、そこにおまえが現れたから……ってところだな」

そこまで言われて、私がした質問を思い出した。

『あの、どうして今日、私を誘ってくれたんですか?』

上条さんにはなんの得もないのにどうして、という問いに時間差で答えてくれたんだと気づき、なんだか胸がじんとしてくる。